邵先生の講義「インフルエンザ」2000年1月15日


邵「12月の講義は難しかったかも知れません。しかし、いまの中国では温病学の理論を鍼灸などに応用するという動きもあります。時代が変わって、地球は温暖化しています。日本も毎年、気温は上昇しています。今年は4―5度ぐらい平均気温があがっています。中国でも毎年の洪水というかたちで影響が出ています。揚子江の水はヒマラヤ山脈からの雪解け水です。気温が上昇すれば、雪解けによって揚子江の水の量も増えて洪水が起こります。地球温暖化など天気が変わっているので、中医学でも変化しないと時代についていけないです。

今日はインフルエンザの話です。わたしは実はウイルスの研究で学位、医学博士を取りました。
中国はインフルエンザ大国です。中国は日本よりもインフルエンザの流行の経験があります。これには理由があります。世界の最北端であるシベリアの永久凍土の中にウイルスがあります。何億年前から永久凍土の中にあったウイルスが地球温暖化の影響もあって溶け出します。(中国・ヨーロッパ・日本の地図を書く)この辺が中国、この辺がヨーロッパ、この辺が日本です。白鳥や鴨などの野鳥は、夏はシベリアに行き、冬は南の中国や日本に来ます。中国では揚子江の周囲で野鳥は冬を過ごします。野鳥はウイルスをシベリアから運びます。中国は現在でも農家では鶏、鴨や豚と人間がいっしょに生活しています。野鳥の持っているウイルスは鶏か鴨にうつります。中国で農家は鶏と豚をいっしょに飼っており、鶏の糞を豚が食べます。豚の糞は肥料として使います。日本の若い人に想像できないかも知れませんが。三年前、わたしが揚子江流域に旅行したとき、遊覧船に乗っているときに揚子江で肥料を積んだ舟とすれ違いました。ちょっと、すれ違っただけで一日中臭いがとれませんでした。中国ではこのように水田でまだ糞を肥料として使っています。そして洪水になると揚子江に水が流れ込みます。揚子江に流れ込んだ水は、揚子江下流の人々が飲みます。そして繁殖して冬になるとインフルエンザが流行します。

インフルエンザの繁殖条件の一つは寒さです。5度ぐらいでインフルエンザウイルスは繁殖します。昔、阪大の微研でインフルエンザウイルスをタマゴで培養していました。普通37度で培養しますが、なかなか増えません。ある日インキュベーターのスイッチを入れるのを忘れて帰って、次の日に来てみたらウイルスが増えていました。これでインフルエンザウイルスが低温で繁殖するということがわかったという阪大微研の有名な話です。もう一つの条件は乾燥です。今年の日本はまだインフルエンザの大流行はありません。しかし、これから寒くなって乾燥すると流行があるかも知れません。

ワクチンはなかなかつくれません
ウイルスは野鳥から鶏、鶏から豚にうつります。鶏と豚は遺伝子の核酸が違います。豚は哺乳動物ですから。ウイルスは野鳥→鴨→鶏→豚→人間とうつる過程でウイルスの表面蛋白が変化していきます。抗体はウイルスの表面蛋白を認識して攻撃しますが、毎年、このようなサイクルのなかでウイルスの表面蛋白が変化していくので、ワクチンはなかなかつくれません。
中国は面白いです。中国の電車は一等車、二等車、三等車の等級があります。中国の農民は三等車に乗ります。外国の旅行者は三等車に乗ったことがある人はいないと思います。中国の農民が乗る三等車には豚と人間と鶏がいっしょに乗っています(笑)。足元に鶏がいて、荷物置き場に豚がいます。このような事情があるので、鶏や豚からの人間の感染という問題は解決できません。冷蔵庫や冷凍車はまだ不及していませんし、冷蔵庫に入れた肉はまずくなります。やはり生きている状態で豚や鶏を運んだほうが食べる時においしいです。このような問題から毎年、中国ではインフルエンザが流行します。

中国と比べるといままで日本ではインフルエンザの大流行はなかったです。しかし、年々、インフルエンザの流行は日本でも問題になっています。これは地球の温暖化と関係があります。昔、野鳥は冬に山口県や九州あたりまで来ていました。この辺は湿度が高いのでインフルエンザが流行できませんでした。しかし、地球温暖化によって野鳥は北のほうで止まっています。琵琶湖の白鳥の数は年々、増えています。今年の白鳥は琵琶湖でほとんどが止まりました。逆に九州の白鳥の渡りは減っています。このように野鳥は北方で止まっています。北方は温暖化したと言っても、まだ雪も降るし、雪が降ると乾燥してインフルエンザ繁殖の条件ができます。だから、日本でもこれからインフルエンザ予防の知識をもたないと怖いことになります。わたしは薬の研究もしています。エイズの薬の研究よりもインフルエンザ研究のほうが重要です。インフルエンザでは何万人も死にます。しかし、日本のお医者さんでさえインフルエンザの認識が困難な部分があります。日本のお医者さんもインフルエンザをどうやって治療するかについては、まったくわかっていません。去年マスコミはインフルエンザで大騒ぎしました。今年はワクチン接種をしている人は多いようです。しかし、ワクチンは当る率が低いです。いま日本で販売されているインフルエンザワクチンは香港型のシドニー株です。シドニーはオーストラリアですから、シドニー株は地理的にずっと南のほうで発見されたものです。野鳥は昔から香港、ベトナム、シンガポールあたりまで南下していました。シドニー株はそういった経路のものです。シドニー株は古い型で日本人はほとんど抗体を持っています。これは昔にかかったことがあるからです。
いまヨーロッパで大流行しているものや、今年日本で徐々に流行しつつあるのはソ連型です。ソ連株は北方で発見されたものです。現代のワクチンはシドニー株と北京株の二つがあります。阪大の微研は北京株でつくっています。これは高くて量が少ないです。日本のほとんどのワクチン、田辺や北里などがつくっているのはシドニー株です。シドニー株のワクチンはうっても意味が無いです。血清を調べると日本人はシドニー株の抗体を持っている人がほとんどです。しかし、北京株の抗体を持っている人はほとんど居ないです。だから、今年ワクチンの注射をした人も全然効かない可能性があります。今年は暖かく、野鳥の渡りの状況が違いますから、感染のルートが変わります。


ワクチンのやり方も間違っていますが、インフルエンザの治療法も間違っています
イルスに効く薬は無いです。「アマンタジン」はインフルエンザウイルスに効くという話ですが、「感染して四時間以内に使う」のが条件です。これはほとんど不可能です(笑)。インフルエンザウイルスの繁殖サイクルは十二時間です。この十二時間の中で、最初の四時間をどうやって知ることができるのでしょう?(笑) 冗談みたいな話です。
インフルエンザのウイルスは四時間で複製のサイクルがあります。このサイクルで倍々に増えていきます。最初の十二時間で爆発的に増えて、その後、減っていきます。そして、このウイルスの爆発的な増加と同時に身体の中でサイトカインが増えます。サイトカインの代表はインターフェロンです。インターフェロンが出ると風邪の時の無力感や身体がだるいなどの症状が出ます。インターフェロンは抗ウイルス作用があります。この時期にサイトカインであるインターフェロン、IL−2(インターロイキン2)などが大量に出ます。サイトカインは初期にインフルエンザウイルス以上のスピードで増えていきます。身体の中のサイトカインなどの免疫は既にウイルスを抑制しています。だから、感染した最初の四時間の間に「アマンタジン」を投与しないと意味が無いです。四時間よりも後なら既に身体の中のサイトカインが増えてウイルスを抑制しているからです。
ウイルスの増殖はスピードが速く、量も多く、あっという間に身体に充満します。しかし、インフルエンザウイルスは野鳥などを感染経路としているために、クローン牛と同じような特徴があります。クローン牛は子供をつくれません。インフルエンザウイルスもあっという間に繁殖して、すぐに繁殖は終わります。肝炎ウイルスのように、身体の中でずーっと生きているということは無いです。
インフルエンザウイルスの被害は、お年寄りの死亡と、子供の脳炎ですね。ウイルス性脳炎と言っているけれども、ウイルス性脳炎で死んだ子供の脊髄液をPCR法という最も精密な検査方法で調べたところ、脊髄液の中にインフルエンザウイルスはほとんどありませんでした。子供が脳炎で死亡するのは、ウイルス性脳炎ではなく、サイトカインによるショック反応です。ウイルスは爆発的に増え、それに伴ってサイトカインも爆発的に増え、自己免疫によるアレルギーで痙攣を起こして死んでしまいます。だから、ウイルスが脳炎の原因ではないです。
老人の死亡の場合は、間質性肺炎になります。最近、小柴胡湯の問題がまた新聞に出ました。間質性肺炎の場合、肺に水がたまって心不全になります。小柴胡湯を使うとサイトカインが出ます。間質性肺炎はサイトカインが出て、アレルギー反応で肺炎になります。間質性肺炎はアレルギーの一種です。これらがインフルエンザで起こっていることです。

インフルエンザはどうやって治療するか?
はっきり言って西洋医学はまったく治療できていないです。もしもアスピリン系の解熱剤を使うと、体温が下がります。体温が下がると身体の抵抗力は下がります。解熱剤を使うとサイトカインの機能も低下し、血の循環も悪くなり、ウイルスは増殖します。しかし、身体の中のアレルギー反応、免疫反応は止まらず、むしろひどくなります。新聞にも「インフルエンザに解熱剤を使わないほうが良い」と最近は書かれていますね。身体の中に熱は必要です。
さらに抗生物質の使い方です。朝日新聞にも「インフルエンザに抗生物質は使うべきではない」という記事が載りました。一部の先生は「抗生物質はまったく使わない」という意見です。
これは非常に難しい問題です。「抗生物質をまったく使わない」というのも難しい問題があります。また逆に「抗生物質を過剰に使う」というのもおかしいです。抗生物質はウイルスには全然効かないし、身体の中にいる他の菌を殺してしまいます。体内の細菌の間でもバランスがあります。この細菌のバランスで免疫機能を維持しています。もしも抗生物質を早く使い過ぎると、細菌間のバランスを崩し、免疫機能は弱り、ウイルスは逆に増えてしまいます。細菌というのはヤクザみたいなものです(笑)。ヤクザ、暴力団がいなくなると逆にチンピラがやりほうだいになります。
抗生物質は初期に使っては駄目です。後期、いったんウイルスの増殖が終わり、ウイルスが肺を傷つけ、肺炎が起こった時なら使っても良いです。例えば、インフルエンザにかかって、二週間たっても、まだ咳が止まらない、痰も多い、微熱がある。このような場合に抗生物質を使います。日本のお医者さんのように、「風邪をひいたらすぐに抗生物質を出す」というのは間違っています。去年、三重県の病院でお年寄りに抗生物質をだして亡くなったという事件がありました。あれは本当に抗生物質の使い方を間違えた例です」

藤井「二週間たって抗生物質を使うという場合、いったん細菌を特定してからでないと意味は無いですよね」

邵「そうです。意味が無いです。細菌性肺炎をどうやって判断するか?
私が中国で臨床している時、教科書に書いてあった方法です。ウイルスが多い時、白血球の数は少ないです。ウイルスが増える時、白血球はウイルスを攻撃してぶつかって死んでしまいます。だから白血球は少なくなります。白血球の標準値は6000ぐらいですが、ウイルス性肺炎の時は4000前後になります。もし二週間かけて白血球が9000から10000なら細菌による炎症が起こっています。その時は抗生物質を使います。」

邵「中医学ではどうやって治療するのか? 温病学の治療法です。温病学は三百年ぐらい前にできた理論です。温病学より前は『傷寒論』の薬しか無いです。おそらく温病学のできる前にインフルエンザはそれほど流行していないです。その時は地球がまだ寒かったので、野鳥は揚子江よりも南に行っています。三百年ぐらい前から地球は温暖化してきたのではないでしょうか? もっとも、これは今思いついた理論ですが(笑)
衛分病では桂枝湯や葛根湯を使います。これらの処方は身体を温めます。衛気病は気候の変化に対応して使います。今日は暖かいです。明日、急に寒くなると衛気の状態は変わります。寒くなるとインフルエンザウイルスがどう変化するかは別にして、天気が寒くなるとウイルスの繁殖条件ができます。桂枝湯や葛根湯は発汗させます。これらはサイトカインの増殖という働きがあります。
今日は午前中に病院の漢方外来で話してきましたが、いま日本の先生は教科書の中に「発熱したら小柴胡湯」と書かれているそうです。これは大間違いです。衛分病が終わって、次の気分病になるともう小柴胡湯は使えないです。これは絶対に要注意です。発熱したら、小柴胡湯は使えないです。気分病の薬には利水薬を入れないといけないです。水を外に出します。気分病では肺炎になる可能性がありますから、サイトカインが増え過ぎないようにコントロールします。これはギョウロクインとかです。しかし、これは日本に全然無いです。
衛分病では銀翹散を使います。中国では銀翹散に羚羊角を入れます。羚羊角は脳神経の痙攣などに効果があります。気分病では桑菊飲などを使います。桑菊飲には芦根、芦の根が入っており、利尿効果があります。気分病で他には白虎湯が代表的です。気分病まで入ったら、もう補気剤を入れたらいけないです。
私は病院で何回も見ているのですが、患者さんが病院で吐いて熱が出ます。そこで七十歳や八十歳のお年寄りに点滴しますが、患者さんは全然おしっこが出ないです。点滴したら、患者さんはその日の晩に亡くなります。これでは殺人か治療か、わからないです。このような患者さんに点滴はいらないです。そのまま放っておいたら、患者さんに何も問題は無いです。インフルエンザウイルスは腎臓の中でも繁殖します。だから、ウイルスを腎臓から、おしっこから出すのは重要なことです。

インフルエンザで鍼治療に来るのは、よほど勇気のある人で(笑)、親戚や家族ぐらいしか無いと思います。そこで予防法の紹介です。

手を洗うことは大事です。インフルエンザウイルスは手から感染します。マスクよりは手を洗うことです。インフルエンザに感染している人はクシャミなど体液が出ます。この人が触っているところはウイルスがあります。もちろん屎尿、おしっことか汗にもウイルスがあるので、手を洗うことは一番重要です。
二番目にウガイです。イソジンでウガイするのは大間違いです。イソジンは殺菌剤です。インフルエンザは細菌ではなく、ウイルスです。喉には常に細菌がいます。イソジンでウガイしたら、細菌を殺してしまってウイルスが繁殖してしまいます。イソジンでウガイしたら、ウイルスは喜んでいます(笑)。中国では毎年インフルエンザが流行し、最近も北京で流行が始まっていますが、今年のヨーロッパのようにパニックになっていないです。これは、やはり漢方の伝統と日常生活でみんなが慣れているからですね。ウガイには、中国で一般的なのは酢です。酢は、抗ウイルス作用はありませんが、酢の刺激は人体の中で免疫反応を起こします。酢は自分の好みで薄めて、使用します。中国では旧正月の二月頃にインフルエンザは一番流行します。この時期に中国では甘酢をかけた料理を食べる習慣があります。
三番目にお灸です。部屋の中をお灸の煙で薫蒸します。お灸の煙はある程度、抗ウイルス作用があります。
葛湯も良い方法です。葛根はトチモト薬局で売っています。葛はもともと抗ウイルス作用があるし、サイトカインを出します。抵抗力をつけるので、予防になります。さらに生の生姜を使います。ホットプレートの上で60度ぐらいで保温しておきます。流行期に患者さんが来たら、「風邪の予防のお茶です」と言って患者さんに一杯あげます(笑)。
葛は炊いたらドロドロになるので、炊く必要はないです。温水で良いです。一リットルに葛根3グラムを入れます。葛は吉野産が良いです。また、夏ならドクダミ茶やハト麦茶を出すと良いです。
あと、風邪の予防をどうしてもしたい場合は、足三里の棒灸です。上海では一万人ぐらいのデータをとりました。風邪の流行期にかからないというデータが出ています。千年灸でも良いです。督脈温陽法をやっている人もあまり風邪にかかりません。」

鍼灸の処方
藤井「先ほど邵先生はインフルエンザの漢方の処方をおっしゃいましたが、鍼灸ではどうなりますか? 衛分病段階の患者さんはよく来ますし、家族がかかる場合もあります。わたしが考えているのは、大椎の瀉灸をして、曲池と風池の瀉法です。頭痛の初期なら少陽経を入れたほうがいいかなと思います。外関―丘墟とか。」

邵「そうです。この場合の外関―丘墟は小柴胡湯と違います。この場合の少陽経の配穴は瀉熱という意味があります。瀉熱はすこしサイトカインを抑えるという意味があります。家族の中に風邪の初期の症状が出ている時、すでに家族はウイルスのキャリアになっている可能性が高いです」

藤井「瀉熱では教科書的には井穴の点刺などですが、肺経の少商などの点刺出血は日本人にはきつい場合が多いですね。もともと肺気虚の体質の人が風邪にかかる場合が多いですから。だから、肺経の替わりに少陽経から瀉熱すればと考えました。インフルエンザは頭痛や関節痛などの症状も出ることが多いですから」

邵「それは賛成です。藤井さんは大椎を使いましたが、この大椎は陽気を高め、ウイルスに対する抵抗力をつくります。その後で風池などで熱をとり、全体のバランスをとります。

中国では本当に発熱した時には「カッサ療法」があります。水で湿らせた冷たいタオルで背中の膀胱経や督脈を血が出るまでこすります。皮下出血するまでやります。病院では竹べらやスプーンなどで背中をこすります。かなり痛いですが、熱は下がりますし、効果はあります。以前、わたしも中国に居たとき、子供のインフルエンザで40度ぐらいの発熱を何回も診ました。西洋医学では点滴しますが、点滴してもすぐに熱は下がりません。数時間以内で何かの変化があるかも知れません。そこで一歳の子供でも竹でこすります。五分から十分間治療して、治療が終わると同時に熱は下がります。一度やってみてください」

藤井「陽気を発散するという感じですか」

邵「そうです。陽気を発散します。家族でインフルエンザにかかって発熱がひどい人がいれば、タオルでカッサ療法をやってみてください。何か質問はありませんか?」

藤井「先ほどの質問に関連してですが、インフルエンザの後で肺炎を起こして抗生物質を使う時、痰などから肺炎の原因となる細菌を特定するということはしないのですか?」

邵「肺に気道がありますね。ウイルスは気道の表面の粘膜に傷をつけます。気道の粘膜細胞がありますね。ウイルスによって気道の粘膜細胞は死んでしまいます。ウイルスは粘膜細胞の中に入って繁殖して外に出ます。この時に気道の粘膜細胞は死にます。だから、気道には死んでいる細胞がたくさんあります。この死んでいる細胞は分泌液、水を出します。それで痰などの症状になります。
気道の中はもともときれいではありません。呼吸する空気の中に雑菌がいますし、もともと気道の中に菌がいます。死んでいる細胞は栄養分となって菌は増えやすい状態になります。
痰が出れば、当然検査したほうが良いです。昔、わたしが受けた医学教育ではグラム染色の検査をするようになっていました。日本でも1970年代の医学教育ではグラム染色をしていましたが、現在は医大でも教えていないです。いまの日本のやり方は面倒な検査はしないで、とにかく抗生物質を入れるというものです」

藤井「痰の検査などで原因菌を特定せずに、広い範囲で効く抗生物質を使うということですね」

邵「そうです。広い範囲で効くやつです。私が受けた医学教育も現代中国では変わっているかも知れません。わたしの頃、抗生物質は高かったです。ペニシリンなど基礎的な抗生物質しかありませんでした。だから、痰からとって培養し、グラム染色で陽性か陰性か分類して、それから抗生物質を使うというやり方です。いまの臨床の場合、痰に関係なく、とにかく抗生物質を出します。いまは物凄く強い抗菌剤を使っています。飲むだけで点滴と同じ効果が出るものもあります。」

藤井「現在日本で菌の特定をやっている病院はあるのですかね?新聞などでは一部にあると書いてありましたが」

邵「あっても非常に少ないです。大阪でやっているところはあんまり無いのではないでしょうか? 気道には良い菌も悪い菌もあります。いまのやり方では全部殺してしまいます。そうすると逆に新しい細菌が入ってきます。人間は真空の中に生きているわけでは無いです。そうすると新しい細菌が増えやすくなります。いまのお医者さんは肺炎で熱が出て、息苦しいという状態でも、菌の検査はやっていないです。とにかく抗生物質を出します。これは残念なことです。西洋医学と中医学の違いは、中医学は「人間は常に変化している」という認識があることです。中医学では、人間は夜と昼では違います。人間は生きているので、常に変化しています。
漢方薬で良く使うのは三子養親湯です。蘇子・莱服子・白芥子が入っています。それに生脈散です。生脈散は人参・五味子・麦門冬です。生脈散は心臓の動きを良くします。三子養親湯は痰をとります。痰をとって、痰がうまく出せるようにして、心臓の動きを良くして全身の循環を良くします。自慢の話ですが、この処方を牧病院で使ったら、お年寄りの患者さんがたくさん助かりました。鍼灸の場合なら温灸したりします。中府の温灸などです。風邪の予防として重要なのは湿度を高くします。マンションに住んでいる人はあまり風邪をひかないです。木造家屋は乾燥し、マンションは湿度が高いです。湿度を高くすると風邪の予防になります。わたしは五年前に湿度が高いとインフルエンザが増えないという話をしました。その先生は病院に冬、加湿器を四台ぐらい置きました(笑)。その先生も看護婦さんもそれ以来、冬に風邪をひいていないそうです。風邪が流行したら、治療室に加湿器を入れたほうが良いです。それから冬ですけど、水分を多くとってオシッコを出すことです。
これから日本も風邪が流行します。風邪をひくと肺の働きが悪くなります。今年は肺が弱い人が多いです。免疫に影響が出ます。今年は一月末までは暖かく、その後、二月から寒くなるという温病の予測があります。当るかどうかはわからないけれども、寒くなると温病が流行します。いまの日本人は身体の中がきれいすぎて、菌をあまり持っていないです。インドネシア(バリ島)に行った日本人だけがコレラになり、他の人々は何とも無いということがありました。中国に行っている日本人留学生の多くは風邪をよくひきます。同じクラスの普通の中国人は大丈夫なのに、日本人留学生だけ風邪をひくという現象があります。抵抗力が弱いからです。特にウイルスによる風邪の場合、サイトカイン過敏状態で、一気に大量に出ます。中国人とかバングラディシュ人なら菌をもっているので、それらの反応を抑え込みます。しかし、日本人の身体の中には菌が少ないので、サイトカインはやることがなくなって自分の身体を攻撃します。だから、これから日本人には花粉症やアトピーなどのアレルギー疾患はどんどん増えてきます。
これを裏付けるデータもあります。インフルエンザ脳症で亡くなる子供が多い国は一番目がドイツで、二番目が日本です。この二つの国の共通点は、生活が清潔だということです。二番目の特徴は抗生物質が好きなことです。わたしがいま行っている会社はドイツの会社です。世界のほとんどの大きな製薬会社はドイツにあります。ドイツ人とつきあいましたが、ドイツ人は抗生物質が大好きです。この人は身体が疲れたら、抗生物質を飲んでいました(笑)。私たちの葛根湯みたいな感じでした。わたしの上司で部長をやっている人です。机の上に抗生物質がいっぱい入っているビンがありました(笑)。ドイツ人は抗生物質、アメリカ人はビタミン剤が好きです(笑)。日本人は漢方薬が入ったドリンク剤です。
以上です」